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NPO法人ひとり親家庭サポート団体全国協議会 第2回全国大会 を開催いたしました
ひとり親家庭が希望を描ける社会をめざして―現場の声から社会を変えるー
開催日:2025年10月4日(土)〜5日(日)
会 場:広島県民文化センターふくやま「文化交流室」/福山ニューキャッスルホテル「曙の間」
テーマ:「ひとり親家庭が希望を描ける社会をめざして ー現場の声から社会を変えるー」
■大会概要
・第1日目:内部研修(10月4日)
内部研修を開催。「ひとり親家庭の『住まいの困難』と支援の最前線」(講師:葛西リサ追手門学院大学社会学部教授)、「共同親権の最新動向と現場で求められる対応」(講師:岡村晴美弁護士)という2つの研修ののち、2人の講師によるパネルディスカッションを行いました。
・第2日目:全国大会(10月5日)
こども家庭庁による施策説明、自治体事業アワードの発表、当事者リレートーク、政策提言、生きる宣言を行いました。
■内部研修(10月4日)


福山の会場に全国から集った仲間を迎え、実行委員会の奥野しのぶ氏(NPO法人こどもステーション代表)が「ここにいる全員が現場を変える力を持つ。学びを各地域へ循環させる2日間にしたい」などという開会挨拶を行い、その後アイスブレークが実施されました。

■講義①「ひとり親家庭の住まいの困難と支援の最前線」葛西リサ(追手門学院大学教授)

葛西教授は、住宅問題を「屋根の有無」に限定せず、不安定な居住・不適切な住まい・DV下の居住の危うさまで含むと定義。民間賃貸での入居拒否や保証人の壁、病気や失職で社宅等から退去を迫られる事例を示し、母子世帯が安定して住み続ける仕組みの不足を指摘しました。公営住宅ストックは全体の約3.6%に過ぎず、家賃補助や居住支援の制度設計が脆弱だと述べ、行政・不動産・支援団体の連携や、生活困窮者自立支援法・住宅セーフティネット制度の活用を提案しました。
■講義②「共同親権制度の最新動向と現場で求められる対応」岡村晴美(弁護士)

岡村弁護士は、2026年施行予定の民法改正により離婚後の単独/共同親権どちらかになりますが、裁判所から命令されうるため夫婦別姓選択制のような「選択制」とは意味が異なると解説。DVは身体的暴力に限らず支配の構造であり、共同親権が加害の継続手段となり得る危険を指摘しました。とりわけ解釈次第で運用が大きくぶれる懸念、居所指定権や監護者指定の判断枠組みの変化、被害者の子連れ別居が抑圧されるリスクを提示。子どもの意見聴取の仕組みの整備や、行政・法曹・支援の三位連携の必要性を訴えました。
■パネルディスカッション:葛西リサ教授 × 岡村晴美弁護士

パネルディスカッションでは、葛西氏はデンマークではDV被害者が避難した先でもさまざまなセキュリティが命を守っていたと指摘。欧米では加害者に退去命令を出して被害者が住み続けられる制度がある一方、日本ではDV被害後は、被害者が逃げることが一般的であるが、民法改正後は、加害者側も居所指定権を持つ点について大きな課題であると述べました。
岡村氏はDV被害者が避難をサポートする女性センターなどが委縮する可能性に危惧を表明。また、これまでは、監護者指定において、監護の継続性が重視され、養育をしていた側(主に母)が監護者になっていたが、今後は、こどもの環境がよいほうが監護者となるとなった場合、住まいの条件がよいほうが監護者となる可能性もあると指摘。
住まいの支援と、共同親権とDV被害者支援の問題が見事に絡み合ってのディスカッションが行われ、交代監護が果たしてこどもにとってよいのか、こどもの権利とはという議論に発展しました。
■閉会挨拶

最後に、実行委員の宇野均惠氏(認定NPO法人ハーモニーネット未来代表)が内部研修の閉会挨拶を行った。講師や参加者への謝意を述べたうえで、「学びを次の一歩につなげ、明日の当事者の声に備えたい」と総括。現場発の知恵を持ち寄り、制度の間隙を埋めるのは支援者同士の連携であるとし、翌日の本大会への期待を共有して第1日目を締めくくりました。
■全国大会(10月5日)
協議会の赤石千衣子理事長よる挨拶から始まり、こども家庭庁支援局家庭福祉課課長補佐の石田裕亮氏からは、令和8年度予算の概算要求について詳細な説明がありました。また大臣や国会議員によるメッセージ、挨拶も行われました。全国大会の中では「ひとり親家庭支援政策自治体事業アワード」の発表と授与式も行われました。
会議の後半では、全国各地の1人親家庭の当事者からのリレートークが行われ、出産、保育、健康不良時の子どもの預け先、不登校、教育費、就職面接での差別的発言、資格取得と移住、働き方と健康、養育費、面会交流、非婚の行政手続きなど多岐にわたる課題が報告されました。これらの報告を受けて、国会議員からも支援の必要性についてのコメントがありました。
最後に、団体から2025年度の政策提言が発表され、児童扶養手当制度の改善、離婚中の母子支援、仕事と子育ての両立支援、生活保護制度の改善、就労支援、教育支援、医療支援、住居支援、孤立防止などについての具体的な提案が行われました。また、「わたしたちの生きる宣言」が発表され、全国大会を締めくくりました。
■開会挨拶(赤石千衣子理事長)

団体の赤石千衣子理事長が開会の挨拶を行い、「ひとり親家庭が多様な家族として尊重され、安心して挑戦できる社会を目指す」という団体のビジョンを述べたうえで、現状では偏見や差別、経済的困難が存在し、物価高騰の中で食料品の購入にも苦労している家庭が多いことを述べました。また加盟団体により年間延べ24万人を支援したことが報告されました。
■こども家庭庁施策説明(こども家庭庁支援局家庭福祉課・石田有介課長補佐)

こども家庭庁支援局家庭福祉課の石田有介課長補佐が令和8年度予算の概算要求について説明しました。特に重点を置いているのは相談支援体制の強化で、ひとり親家庭の多様な状態像に応じたきめ細やかな支援を行うため、国庫補助率を2分の1から3分の2に引き上げる要求を行っていることが報告されました。また、福祉専門職を相談窓口に配置し、生活に困窮して孤立しやすいひとり親家庭に対するアウトリーチ型の支援も強化するとのことです。さらにひとり親家庭等生活向上事業の拡充、住まいの支援の強化、子どもの生活・学習支援事業の拡充、学び直し支援事業の新設、就業支援の強化などについても詳細に説明されました。
■大臣・議員メッセージ
三原じゅん子内閣府特命担当大臣、永岡桂子自由民主党議員、田村憲久自由民主党議員からのメッセージが代読されました。
・三原じゅん子(内閣府特命担当大臣)
三原じゅん子内閣府特命担当大臣からのメッセージでは、ひとり親家庭が生計維持と子育てを1人で担うことの困難さ、特に物価高騰の中での苦労に言及されていました。経済的困窮に加え、心身の健康、仕事、子育ての悩みなど多様な困難が複合的に発生しているため、それぞれの状況に応じた多面的な支援が重要であるということ、またこども家庭庁では令和5年12月に取りまとめた加速化プランに基づき、児童扶養手当の拡充をはじめとした支援策に取り組んでおり、令和8年度概算要求では相談体制の強化、就業支援の強化、子どもの支援の強化を盛り込んだことが報告されました。
・永岡桂子議員(母子寡婦福祉対策議員連盟会長)
母子寡婦福祉対策議員連盟(ひとり親家庭議連) 会長の永岡桂子議員からのメッセージでは、ひとり親家庭を取り巻く状況が依然として厳しい環境であることが指摘され、児童扶養手当の増額や法定養育費の確保などが進んでいるものの、さらなる経済的支援の充実や就労インセンティブが働くような児童扶養手当制度の抜本的な改善が急務であると述べられました。
・田村憲久議員(子どもの貧困対策推進議員連盟会長)
子どもの貧困対策推進議員連盟会長の田村憲久議員からのメッセージでは、超党派の議員連盟として子ども貧困解消とひとり親家庭の家計安定のために活動していることが報告され、今年6月に取りまとめた提言に基づき、関係省庁に対して様々な支援策の実施を求めていることが説明されました。
■国会議員挨拶
また、来場していた国会議員が挨拶を行いました。
・西田英範自由民主党議員

自由民主党参議院議員の西田英範氏は、厳しい物価高の中でひとり親家庭を支援する重要性を強調しました。政策としては、イギリスのユニバーサルクレジット制度のような包括的な支援制度の検討や、わかりやすく支援が行き届く制度設計に向けた改革に取り組む意向を示しました。
・福田玄国民民主党衆議院議員

国民民主党衆議院議員の福田玄氏は自身も離婚を経験し養育費を支払う側の当事者であることを述べ、養育費の立替払い制度の必要性を訴えました。また、子どもたちの未来を守るために超党派で取り組む姿勢を示しました。
・石井智恵国民民主党衆議院議員

国民民主党衆議院議員の石井智恵氏が自身もひとり親として子育てした経験を語り、DV被害者支援の重要性を訴えました。政治家の中でひとり親の苦労が理解されていないことが支援が進まない大きな要因だと指摘し、当事者と支援者が連携して声を上げることの重要性を強調しました。
・三上絵里立憲民主党参議院議員

立憲民主党参議院議員の三上絵里氏は、ひとり親家庭の経済的困難について言及し、特に女性の賃金格差や非正規雇用の問題がひとり親家庭の貧困につながっていると指摘しました。日本の社会構造を変えるために、現場の声と政策を連携させることの重要性を訴え、情報共有を続けることで支援の充実を図る意向を示しました。
■ひとり親家庭支援施策自治体アワード発表


全国大会の中では「ひとり親家庭支援施策自治体事業アワード」の発表も行われ、「ひとり親とこどもの未来応援賞」を兵庫県明石市「ひとり親家庭総合支援事業」、宮城県仙台市「ひとり親サポートブック『うぇるびぃ』」『うぇるびぃmini』配布事業、宮崎県宮崎市「養育費確保支援3事業」が表彰されました。授与式に出席していた明石市の佐野洋子副市長は受賞の挨拶で、こどもを核としたまちづくりの取り組みについて説明し、「すべてのこどもたちを地域全体で見守り、全力で応援する理念のもとで今後もひとり親家庭のサポートを推進していきたい」などと述べました。
■全国の団体とJSPFの紹介(スライドショー)


岩本花奈氏(NPO法人ひとり親家庭サポート団体全国協議会事務局)より、同団体の活動について紹介があり、団体支援、調査政策提言、人材育成などの事業を通じて、ひとり親と子どもたちが多様な家族として尊重され、豊かに繋がり、安心して挑戦できる社会を目指していることが説明されました。続いて、小幡美奈子氏(NPO法人シンママ応援団代表)より、全国で活動する37の加盟団体の活動が紹介され、北海道から沖縄まで、各地域でひとり親家庭を支援する様々な取り組みが行われていることが報告されました。
■リレートーク

平井照枝氏(NPO法人ひとり親とこどもふぉーらむ北海道代表)の進行のもと、全国各地から12名の当事者がオンライン、または会場で登壇しました。テーマは「未婚の出産」「乳幼児期の一時保育」「DV被害者の小学校入学準備」「不登校の子どもの居場所」「教育費」「就職活動で受けた差別」「資格取得と移住について」「親の健康不良の際の子どもの預け先」「働き方と健康」「養育費の取決めと仕組み」「面会交流について」「非婚の行政手続きについて」と多岐にわたりました。
それぞれの経験を通して、制度や法律の壁、行政や社会からの偏見・差別などを共有しました。特に、住まいや教育、就労をめぐる制度や施策、当事者の心のケアなど複合的な課題が絡み合う現状が浮き彫りとなりました。
中でも、不登校のこどもを育てるひとり親からは、現在の不登校のこどもをめぐる状況について「子ども自身が苦しみ、親も働きながら安心して預けられる居場所がないのが現実」と紹介されたうえで、「学校へ行ける子には無料の居場所があるのに、行けない子はお金がないと通えない。家計にかかわらず、どの子も安心して学び過ごせる場を選べるよう、学校外の居場所への公的補助を全国で整えてほしい。また、働く親も利用できるよう教育支援センターの開所時間を拡充してほしい」と、制度の改善と支援の必要性が述べられました。
また養育費を受け取れない状況にあるひとり親からは、現在の制度について「裁判で支払い命令が確定しても、実際には一円も支払われず、虚偽の書類提出にも罰則がなく、誠実に対応した側が費用と時間を失う“泣き寝入り”の構造がある」と紹介したうえで、「養育費や婚姻費用は子どもの命と未来に直結する権利。確定した支払いは税金のように強制的に取り立てられる仕組みを整え、親の義務を果たさない人から確実に子どもへ届ける制度をつくってほしい」と、制度の抜本的な改善の必要性が述べられました。
DV被害を経て離婚し、第三者機関を通じて面会交流を続けているひとり親からは、現在の制度について「調停や裁判で面会交流が決まると、同居親が“債務者”、別居親が“債権者”とされ、DV加害側が法的に強い立場になるという不平等が続いている」と紹介されたうえで、「調停や訴えを何度も繰り返す“権利の濫用”が行われても、現行制度では止める仕組みがない。面会交流は親同士の力関係ではなく、子どもの安心を最優先に、対等な立場で実施できる制度改革が必要だ」と、制度改善の必要性が述べられました。
■政策提言

ひとり親家庭サポート団体全国協議会による2025年度の政策提言「ひとり親とこどもたちが安心して生き生きと暮らせる社会を実現するために」が、西﨑麻衣氏(NPO法人しんぐるまざぁずふぉーらむ関西)、佐藤笑美里氏(一般社団法人シンママラボ代表理事)によって発表され、「児童扶養手当制度等について」「別居中の母子の支援施策について」「仕事と子育ての両立ができる支援施策について」「生活保護制度の改善について」「養育費の取り立て、安全な面会交流(親子交流)の施策への改善について」「就労支援について」「教育支援について」「医療費支援について」「住居支援について」「孤立防止について」の具体的な提案が行われました
■「わたしたちの生きる宣言」

奥野しのぶ氏(NPO法人こどもステーション代表)、佐々木綾子氏(認定NPO法人STORIA代表)によって、ひとり親家庭サポート団体全国協議会の「わたしたちの生きる宣言」が発表されました。宣言内容は、①ひとり親家族がひとつの家族の形だと考え、誇りを持って生きていくこと、②離婚、未婚、死別など経緯に関わらずお互いの生き方を尊重すること、③親としてこどもを大切にすると同時に自分自身を尊重すること、④ひとりで解決せず必要なときに助けを求めること、⑤同じ立場の仲間と繋がり元気を分け合うこと、の5点でした。
■閉会挨拶

ひとり親家庭サポート団体全国協議会事務局からの寄付のお願いに続き、柚木幸子氏(NPO法人オカヤマビューティーサミット代表)による閉会の挨拶が行われ、本大会には国会議員5名を含む84名が会場で参加し、またオンラインでは32名が参加したことが報告されたうえで、「ひとり親家庭が直面する困難がますます深刻化している中で、今後も当事者の声に耳を傾け、支援を積み重ねていきたい」という言葉で締めくくられました。