ひとり親家庭の子どもたちの現状
教育費に関するひとり親家庭のこどもたちの声
ひとり親家庭サポート団体全国協議会では、すべてのこどもたちが経済的な理由で進学を諦めることのない社会を目指し、政策提言や情報提供に取り組んでいます。
今回、教育費をめぐる体験や思いを募集したところ、短期間の呼びかけにもかかわらず、全国から339通もの切実な声が寄せられました。
そこには、進学への不安、制度の壁、そして「未来への希望」を語ることすら遠慮してしまう」ような現実が詰まっていました。
進路を選ぶ自由がないこと、支援制度の複雑さ、相談のハードル、情報格差――届いた声のひとつひとつが、制度の隙間に取り残されている子どもたちの姿を映し出しています。
このページでは、こどもたちの生の声をもとに、ひとり親家庭の教育費をめぐる課題と制度のあり方を考えます。
いただいた回答の一部を、個人が特定されないよう十分に配慮し、ご本人の確認を経て掲載しています。
こどもたちの声
目次
Q.
あなたは進路を決めるとき、進学のときや学校のイベント、習い事など教育費で苦労したことはありますか?それはどんなことでしたか?
1. 進学費用・受験費用による進路制限
進学にかかる学費や受験料、交通費などの負担は、進路選択の幅を狭めます。希望する学校や学部を諦めざるを得なかったり、受験校をぎりぎりまで絞らざるを得ない状況は、子どもたちの将来の可能性を制限し、自己決定権を奪う要因となっています。
2. 通塾を含む習い事や部活動の制限
塾や予備校に通う費用、模試代や参考書など学習にかかる教材費の負担は大きく、機会の格差を生んでいます。周りの多くが塾に通う中、自力で勉強するしかない状況は、学力面だけでなく不安や孤立感を生み、学ぶ意欲や進学への自信を失わせる要因にもなっています。また習い事や部活動にかかる月謝、道具代、遠征費などが高額で、子どもがやりたいことを諦めざるえない場面が多くあります。文化・スポーツ活動を通じた成長機会が失われるだけでなく、親の負担を気遣い、希望を口にできないという心理的抑圧も生じています。
3. 学校生活・イベント参加の制限
制服、修学旅行、宿泊学習、卒業アルバムなど学校生活に必要な費用が負担となり、参加を辞退したり、準備が不十分なまま臨むケースがあります。周囲との違いに気づき、恥ずかしさや疎外感を感じることで、学校生活そのものへの意欲や安心感が損なわれています。
4. 家計とのバランス
親の負担への遠慮 親の就労状況や病気、収入の不安定さにより、子どもが進学や活動の希望を口にできず、遠慮して諦めるケースが多くあります。親の苦労を間近で見て育つことで、子ども自身が「迷惑をかけたくない」と希望を抑え込み、自己肯定感や将来への展望に影響を及ぼしています。
5. 心理的・社会的な影響
教育費の困難は、単なる経済的問題にとどまらず、子どもたちの心に深い影響を与えています。自己肯定感の低下、孤立感、将来への不安などが積み重なり、「自分には価値がないのでは」と感じるようになることもあります。教育の機会格差は、心の格差にもつながっています。
Q.
教育費のことでお母さん(あるいはお父さん)と相談しましたか?

Q.
今考えて、こんな応援があったらよかったなあと思うことがあったら教えてください
1. 制度や申請方法の簡素化や振込時期の早期化
奨学金や支援制度の申請は団体ごとに手続きが異なり必要書類も多く、受験勉強と並行して行うには大きな負担となっています。収入証明書の取得費用なども申請者側の負担となり、制度の存在を知っていても申請を諦めざるを得ないケースが生まれています。定時制高校が対象外となる制度もあります。
2. 情報格差を埋めたり相談のハードルを下げるような支援
支援制度があっても、情報が届かず、調べる手間や相談のハードルが高いため、活用できないまま終わることが多くあります。信頼できる相談窓口や、制度を一元的に知る場が身近にあれば、もっと早く安心して進路を考えられたという声が多く、情報アクセスの格差が進路格差に直結しています。
3. 学習支援・塾費用への応援
塾や学習支援を受けるための費用が高く、通いたくても通えない子どもが多くいます。塾に通うための奨学金制度や、無料・低価格で質の高い学習支援があれば、学力面だけでなく精神的な安心感にもつながります。オンライン支援だけでなく、対面でのサポートも望まれています。
4. 通学・学校生活への支援
通学定期券や修学旅行の積立や教材など、日常的な学校生活にかかる費用が家計を圧迫しています。支援金が後払いであることも負担となり、「出すお金がない」と親が悩む姿を見て、子どもが希望を言い出せなくなることもあります。通学費や学校生活にかかる費用への前払い支援や免除制度が求められています。
Q.
あなたはこどもたちが進学をあきらめないように、情報を届けるにはどうしたらいいと思いますか?
行政で窓口を一本化してほしい。そこに連絡すれば個人に合った情報が届く仕組みがあれば、取りこぼれず希望が持てる。
(関東地方/大学生/女)
相談しやすい場所を増やすことが大事。学校や地域に気軽に話せる窓口があるだけで安心できる。
(関東地方/高校生/女)
LINEやYouTubeなど、こどもが見るSNSで情報発信してほしい。
(近畿地方/高校生/男)
奨学金のパンフレットやネットでの発信、ひとり親向けの相談機会を設けてほしい。
(中部地方/高校生/男)
学校にもっと周知してほしい。先生が奨学金の重要性を理解し、声かけやアドバイスをしてほしい。
(関東地方/大学生/女)
学校の授業内で全員に伝えてもらえる機会がほしい。掲示だけでは伝わらない。
(九州地方/高校生/女)
SNSや学校でチラシを配ってほしい。もっとわかりやすく伝えてほしい。
(近畿地方/高校生/男)
一緒に頑張る仲間がほしい。仲間から情報が回ってくるとやってみようと思える。
(近畿地方/高校生/男)
ネットに情報をもっと書いてほしい。学校や役所は教えてくれない。
(関東地方/高校生/女)
母子家庭の子が進学を諦めないよう、具体的な告知を学校やメディアでしてほしい。
(関東地方/高校生/女)
授業料を申請なしで無償化してほしい。そうすれば進学を諦める子が減る。
(中部地方/高校生/男)
学校側がもっと親身になって支援制度の説明をしてほしい。
(関東地方/大学生/女)
TikTokやInstagramで発信し続けてほしい。こどもが見ている場所で届けてほしい。
(近畿地方/高校生/男)
国や自治体がもっと積極的に発信してほしい。学校を通じて情報を届けてほしい。
(関東地方/高校生/女)
学校で進路情報や支援制度の一覧を勧めてくれると安心して進路を決められる。
(関東地方/大学生/女)
教育費調査(識者コメント)
教育費に関する家庭の経済状況がこどもの心身に与える影響
小林雅之(桜美林大学教授)
コメントには、現在の経済的支援の様々な問題点が浮き彫りにされている。
今回のアンケート結果からは、ひとり親家庭の子どもたちが直面する経済的困難が、進学や日常生活に深刻な影響を及ぼしている実態が浮き彫りになっている。最も深刻なのは、家庭の経済状況によって高等教育への進学が制限されることである。高等教育進学率が8割を超える現在でも、経済的理由で進学を断念せざるを得ない子どもが確実に存在している。
さらに、たとえ進学できたとしても、経済的理由から、自宅通学、国公立大学、短大や専門学校など、進学先が限定されてしまった人もいる。私立大学や専門学校などでは、学部や専門分野により授業料も異なる。高い授業料のため、希望する進学先を選べなかった人もいる。
これらはすべて教育費の家計負担が重すぎることとそれに対する支援の乏しさによって生じている問題だ。
さらに、問題なのは、授業料だけではない。制服代、部活動の遠征費、演奏会や修学旅行の費用など、学校生活に必要な支出が家計を圧迫している。塾や予備校、資格取得、オープンキャンパスへの交通費など、学校外の学習機会にも大きな格差が生じている。
こうした直接お金に関わる問題だけではない。心理的負担やストレス、学習意欲の喪失も大きな問題だ。「心がすり減っていくようでした。」というコメントは象徴的だ。この問題は、本人だけでなく家族にも同じように、かかってくる。自尊心や自己肯定感は親の苦労を間近で見て育つことでむしろ育まれる面もある。しかし、子ども自身が「迷惑をかけたくない」と自尊心や自己肯定感を抑え込んでしまう。
こうした状況にあると、視野が狭くなってしまう。周りのことにかまう余裕がない。こうして孤立化し孤独感に苛まされている。また、今を何とかすることに精一杯で未来を想像したり考えたりすることもできない。「母と2人だけの世界にとどまり」、「自分の”器”が広がらないことに焦りを感じることもあります。」
進学に必要な情報を収集することもできない。したくても時間的にも精神的にも余裕がない。
こうした家族の状況に学校、地方公共団体や国の支援が追いついていない。また支援があったとしてもワンストップサービスになっておらず、申請のハードルは高い。「制度の存在を知っていても申請を諦めざるを得ないケースが生まれています」
学校現場にも、こうしたケースに丁寧に関わる余裕はない。教員は過重労働になっている。「学校の先生に相談しても、制度の詳細までは分からないことが多く、結局自分で調べるしかない状況」になっている。このため、教職員に多くを望むのは難しい。
家庭の実情に寄り添った支援が必要だ。「信頼できる相談窓口や、制度を一元的に知る場が身近にあれば」とか「「もし、地域や学校の中に、気軽に話せる大人やロールモデルがいたら、もっと前向きに未来を描けたと思います」という声は切実だ。
注目されるのは、次の回答だ。
「こどもや若者の学びを支えてくれるNPOのオンライン学習支援を利用しました。ネット上で面談をしてもらい、進路の相談や勉強のアドバイスを受けることができました。学校や家庭ではなかなか話せないことも、安心して話せる場があることで、気持ちが前向きになりました。経済的な事情で塾に通えない中、こうした支援があったことは本当に心強かったです。学力面だけでなく、気持ちの面でも支えてもらえたことに感謝しています」。経済的事情で塾に通えない子どもにとって、こうした支援は学力面だけでなく心理面でも大きな支えとなっている。
学校や国があてにならないのであればこうした支援が広がることが求められる。そして、国や地方公共団体は、こうした民間支援を後押ししつつ、教育基本法第4条第3項にある「経済的理由によって修学が困難な者への奨学措置」を実質的に果たす必要がある。家庭の実情に寄り添い、信頼できる相談窓口や一元的な情報提供の場を整備することが急務である。
子ども参加型のひとり親家庭支援制度構築に向けて
森田明美(東洋大学名誉教授)
ようやく語りだしてくれた子どもたちのメッセージをおとなが特に子どもに影響を与える立場にいるおとなが聞く機会を大切にしたいと思う。
子ども支援の取り組みは、親、教師、家庭、学校の責任、自助を原則としてきた。その結果、おとなに意見や状況を聞き、おとなが考える子どもの不足分を補うという発想を取られることが多かったのではないだろうか。
こうしたこれまでの取り組み方に対して、2022年に子ども基本法が制定され、子どもの権利条約の原則を具体化する取り組みが実施されるようになった。そこで取られた「子どもまんなか」という言葉で表現される子どもの権利の考えによって、やっと子ども自身は何を希望しているのか、実態はどうなっているのかということに視点を切り替えられ、子どもに聞くという「意見表明、参加」が始まったのである。子どもたちも学校や家庭でのおとなたちの状態や対応は十分に知っている。だから、自分の語ることがどのような支援につながるのかということにイメージがつながった時に、やっと重い口を開き、参加し、語りだしてくれることになる。
子どもが動き出すには段階がある。さんざん裏切られてきた子どもたちであるがゆえに、簡単かつ単純な話ではない。「情報や制度がわかれば、それに挑戦する人はいる」という段階の子どももいるが、そうでない子どももたくさんいる。とりわけ、ひとり親の子どもたちの置かれてきた状況は過酷である。
それすら届かない人、届いても信じない、挑戦しない人たちがいる。ずっと長く裏切られてきた子どもたちの多くはそうした状況に置かれている場合が多い。
意欲がなければそこに働きかけても無視される。働きかけを信じて利用したときの成功体験がない子どもたちには挑戦をするという面倒なことはしないし、まして希望を語るなどということはしない。
排除され続けてきた子どもたちが語り始めてくれたことに感謝したい。そしてやっと自分が選び取るチャンスをつかむ入口に来てくれたのである。仲間がつぶされていることを私たちに伝えてほしい、そのメッセージをおとなたちがどれくらい真剣に実現に向けた努力をするかが問われている。少しずつ、一つずつ、具体化できたこと、できないことはなぜなのか、そうした応答を、あきらめないでやり続けることのなかから、信頼関係が生まれ、少しずつ子ども参加によるひとり親支援が具体化していくことになる。新しい信頼が形成されるには時間が必要である。 ひとり親家庭サポート団体全国協議会が子どもたちと一緒に子ども自身が主体の人生に寄り添うための挑戦をここから始めたいと思う。